1-1 コミュニケーションのテーブルにつこう!
(でも)
コミュニケーションの定義は「しない」?


中佐藤:このフェイスブックでは、実は「コミュニケーションの定義はしない」ことを考えています。…というのは、どんなものがコミュニケーションの範疇に含まれるのか、あれやこれや議論したり、実践していく中で “事後的に”顕在化してくるもの。そのかたまりがコミュニケーションなんだ、という理屈なんですね。

集まっているメンバーはデザイン、SP(セールスプロモーション)、PRの人間なので、「企業―顧客間のコミュニケーション」というくくりはあるんですが、そこまで絞り込んでもなお、コミュニケーションという言葉は茫漠としている。そしてこのテーブルに集まっているメンバーは、この言葉が、今後の世界でいよいよ重要になってくるだろうと考えている。

ですから、現場の肌感覚にもとづいた議論をして、それを現在進行形でフェイスブックに上げ続けていきたい、ということを考えています。

片桐:さっそく、今の「定義をしない」ということに関してなんですが…英米の倫理学の世界では、言葉の定義に関して「薄い記述 thin description」と「厚い記述 thick description」という概念が使われています。

「薄い記述」というのは、辞書に載っているような、誰もが同意する最低限の意味。「厚い記述」は、それにどんどん内容を付加していって、意味を厳密にしていくんですね。例えば『共同体』っていう言葉で議論をしている時に「君の使っている『共同体』っていうのはどういう意味なんだ」と。国家か、民族か、信仰共同体なのか、それらの複合体なのか。範囲や含みを明確化していかないと、実は違った概念について議論をしていたので噛み合なかったんだ、ということが起きてしまうわけです。

…というわけでこのフェイスブックでは、薄ーい記述から初めて、薄い記述であり続ける余地を残しつつ、話の文脈に応じては、厚い記述によって議論を噛み合わせていく。そんな生産的な場にしていければなと。

中佐藤:なるべく、わかりやすい単語で議論を転がしていきたいよね。

ちょっと話が飛ぶかもしれないけど、一例で言えば、「コミュニケーションがマーケティングをつくる」といった言い方をしてみたい、と思っています。普通ならば「マーケティングでコミュニケーションをする」という言い方が一般に馴染みがあると思うんだけど、それは今や逆転するべきではないか?という僕らなりの理屈があったりするわけです。

その時に、むやみに難しい概念や言葉を使っているわけではなくて、広く知られている言葉を使って、単に理屈をひっくり返しているというのがポイント。ではなぜそんなアンチテーゼ的なことを考えたりしているのか? そこを議論していきたいと思っています。

この中では、「対面で接する」という意味で、ヒトに一番近い仕事をしてきたのが古橋さんかな?

古橋:そうですね、SP畑でずーっと人に触れてきて。その後はITの世界から、人の予測みたいな部分をやってきました。もともとは、人と人が対話しながらモノを紹介したり売ったりする現場に、自分が立ったり、あるいはディレクションをしてきたんですけど、その中で結果的に「人(の行動)は読めない」という壁にぶつかったんです。



1-2 SPの現場で考えたこと


古橋:…で、ぶつかったとはいえ、SPっていうのはものすごく重要だなと、再認識もしたんです。なぜかっていうと、お客さんはこれをなぜ欲しいんだろう?何でいらないんだろう?競合製品はどう思ってるんだろう?20代の反応は?というような、ナマの声を吸い上げられる。その情報量がハンパじゃない。

これはソーシャルメディアなんかに触って初めて思ったことなんですけど、口コミといってもやっぱり文字情報なんですよね。

でも店頭やSPの世界は、対話ですから顔が見える。同じ言葉でも、おばちゃんがすごくにこやかな笑顔でね、「これすごい嬉しかったんだよね!」って話しかけてくれる、あるいは一度買った人がまた買いに来てくれたとか、そういう実感があるんです。そうするとこちらも本当に嬉しい。「このPOPがほめられました」とか、「この商品、こう風に説明したらすごく喜んでもらえました!」っていうのを、そのままマーケティングデータとして、商品開発やプロモーションに反映できないかって、ずっと思っていたんですよ。

一通りの商材を店頭で扱ってみた感覚としては、CMの反響とか、PR施策でやってきたんだなとか、そういう効果もSP側で感じ取れる。一番下のレイヤーかもしれないけど、企業にとっては、お客さんの生データをいただける、一番ダイレクトな場所なんじゃないかって。

…で、ここで出てくるのが「データ」なんですけど。「データってなんだろう?」っていうところから、僕はIT業界に転身をしたんですね。

そこで、これまでとは違ったITの視点を獲得しながらお客さんを見ていくうちに、少しずつ繋がってきたんですよ。というのは、お客さんのアンケートデータなんかを見る機会があると、「もうちょっとこういう風にデータ取った方が良いのにな」というのが、やっぱりあるわけですね。クレームを拾うだけじゃなくてこう返せばコミュニケーションになるのに…っていうようなことを、今、正に考えているところなんです。

山本:今の話で僕が面白いって思うのは、SPをやり続けていたらきっと考えなかったことを、ITの側にエイッと越境するわけですよね。そちら側から逆照射して、SPをやっていた自分というものが見えてくる。そういう構造。

古橋:そうです。どうも僕は、常に何かにつけて、いろんな方向から自分を見ていて、自分をコントロールして喋ってるみたいな感じがあるんです。

山本:ちょっと多重人格っぽい?

古橋:多重人格っぽい。例えばお友達が100人いると、「古橋さんって感情が表に出る人だね」っていう人もいれば、「全然しゃべらないね」って言う人もいて、どうも印象が違うみたいなんです(笑)。

それ嫌だなあって思って、なんでだろうって振り返ると、多分「人ってなんだろう」っていうのを、小さい頃から考え続けてたからなんですね。人って矛盾だらけだし、お互いに話を聞かないし、良い人だって、嘘もつけば、裏切ったりもする。そんなことを考えながら、でもやっぱり人に触れたいという思いがあって、今の仕事に繋がっているのかなあと。

片桐:何か欠乏感というか、自分を取り巻く世界や人のことがわからない、理解したいという要求を抱えている方が、人を触る仕事に向いているのかも知れませんよね。僕はコピーライターですから文章を書くんですけれども、根っこの部分では、同じような動機でこの仕事を始めたような気がします。

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