2-1「ソーシャル」×「メディア」=?


古橋:昨年は、僕自身にとっては、ソーシャルメディアを考え、ソーシャルメディアから語り続けてきた1年になりました。その結果として、リアルやCRMも触る必要が出てきたという実感があります。店頭施策から吸い上げられた声(SP)があったり、顧客の声の「見える化」(IT)があって、それらを統合しつつ、消費者や企業にとっての「嬉しい」をかたちにしていくのが、このテーブルの役割だと思っています。

特にそう思うようになったのが、データの取り方や活かし方を真剣に考えてきたからなんです。確かに、ツールはいいものがたくさん出てきましたが…。ただ溜めているだけでは「見える化」はできない、意味がないという局面にもぶつかりました。つまりは、「まず戦略ありき」という結論に辿り着いたんです。

中佐藤:自分の考えの論拠みたいなものは、過去の自分の中にしかないですからね。そこに、古橋さんの現在の必然性があると。

ところで、その「ソーシャル」という言葉について。僕は初めてFacebookに誘われたのが、3年くらい前かな? で、ちょっと即答しかねたんですよね。既にグランズウェルの話は大きかったんだけど、FBなるものが日本にどう定着するのか、まだ見えなかった。ソーシャルメディアに対する認識が完全に一変した…というか顕在化したのは、やっぱり3.11の時でしょう。twitterの力をみんなが知ったよね。

…とはいえ、ソーシャルネットワーク、ソーシャルテクノロジーとか、色んな言われ方をするけど、その「ソーシャル」という言葉が、僕には未だに釈然としないんですね。「社会」と「ソーシャル」に分けるなら、わからないでもない。リアル側が「社会」、デジタル側が「ソーシャル」だから。でも英語圏なら、どっちも“social”でしょう? どうやって分けているんだろう? っていう。

片桐:それ、僕も考えてきたことです。ソーシャルに関しては、知ったのだけは早かったんですね。知人がネットリテラシーが高くて、twitterはサービス開始直後くらい。まだ英語で。なんだコレ?って(笑)。FBも、相当早い時期にクラバーの友達に教えられて。外国と繋がってる人たちが早いですね。

…で、日本の受容を見ていて思うのが、ソーシャルメディアってひょっとして「ソーシャルじゃないかも?」っていう。むしろ「パーソナルメディア」じゃないかと思ってるんです。

一つには「ソーシャル」の部分。海外の成功事例を見るにつけ、ユーザが非常にアクティブな点が印象的で。日本の社会/個人のありようはまた独特なので…英語のソーシャル、仏語のソシアビリテといった歴史的に確立されてきた概念は、日本の「社会」とは直結しないんじゃ?ってモヤモヤ感が拭えないんです。

それから「メディア」の部分。Webサイトのプルに対して、プッシュがかけられる。マーケティング的に注目されている理由の一つですよね。だから「ユーザに近い」とか「密にコミュニケーションが取れます」って喧伝されている。でもユーザの皮膚感覚が「ソーシャル」じゃなくて「プライベート」なんだとしたら、マス的な思考で臨むと、コミュニケーション上の齟齬が起きかねないんじゃないか。

中佐藤:…なるほどね。

でも、対論をぶつければ、表層とはいえデータとして個々人が見える。それらを集めればやっぱり「ソーシャル」と言えるんじゃないの? そこを、いたずらに難しいロジックに突っ込んでいくのはどうなんだろう?

片桐:あ、もうちょっと続きが…

中佐藤:あ、そう? 失礼しました(笑)



2-2 消費者と企業は同床異夢?


片桐:なんでそう思うのか、自分史に摺り合わせて考えてみたんです。キャリア=Webの歴史なので。

まず90年代、HTMLでWebサイトが作れるんだということで、いっせいに個人が作り始めましたよね。一部の人々でしたけど。その後ブログが出てきて、もう一度騒がれた。「個人が情報発信できる時代だ!」って。その時はもっと大勢が飛びつくんですけど、それでも大ブレイクには至らない。普通に暮らしていれば、そんなに表現要求とか、発信する情報を持ってないので。

次いでソーシャル、twitterやFBになるんですけど、これがご存知のように盛り上がった。なぜか? 個々人の「繋がりたい」要求を簡単に満たしてくれる。ネタがなければ、つぶやきやお喋りでも成立しちゃう。そしてデバイスフリー。

こうして時系列で考えてみると、さっきパーソナルメディアって言い方をしましたけど、これって個人の「オウンドメディア」ですよね。それらのプライベートな結びつきが、複雑なネットワークを形成している。 睥睨している視点なんて、どこにもない。

中佐藤:確かに、リアルとの対比で言えば、人は街を歩いている時に「俺は社会を形成しながら歩いてるぞ」とは思ってないよね。…でも今のロジックを突き詰めることで、何が導き出せるの?

片桐:う~ん、僕が思うのは、盛んに取り沙汰されている「ソーシャルメディア」に対して、「実はプライベートかも?」という認識を踏まえることでコミュニケーションを適正化できないか、ということなんです。

古橋:あ、そこなんですけど。twitterなんかで僕がちょっと気になるのは、右側に広告が出てるじゃないですか。で、ソーシャルの広告って、現金や景品でプッシュしてくるものが非常に目立ちます。でも僕は消費者として、そもそもこの商品が何なのか、自分にとってどうなのかを知りたい。そこをアナウンスして欲しいのに、モノで釣ったらブランドダウンを起こすだろうって、他人事ながら心配になるんですよ。

でも多分これは、ソーシャルのプロモーションやマーケティングをやっている会社が「ひとまずこれで行きましょう」「みんながやってますから」っていう。要は、何を目的として何をやるか、個別明確に考えられていないんじゃないかと思うんですよ。ルーチン的作業になっている気がして。アメリカではこんな事例が成功した、日本のA社やB社の先進事例は…って、パーツだけ切り離して話されたりですとか。

で、ここで僕個人とソーシャルメディアの関わりなんですけど…実は、twitterを始めたのがここ1年くらい。始めは友だちに誘われたんです。

ところが、自分の心の内をですね…ちょっと気恥ずかしいようなこと含めて全部さらけ出していくと、それがRTされて、あれよあれよと拡散して、出会ってもいない人と「ああ、古橋さんの考え、わかるわかる」と繋がって、実際にリアルで会うことが、去年は非常に多かったんですね。

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