GUEST

花王株式会社 デジタルコミュニケーションセンター 企画室長

本間 充さん

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R 3-1 数学者、兼、Web広告研究会代表


テーブル:本日は、ゲストをお迎えしての「出張テーブル」です。ゲストは、花王株式会社Web作成部Web技術室 室長…3月1日より「デジタルコミュニケーションセンター」と部署名が変わり、より総合的にデジタル・コミュニケーションに取り組んでおられます、本間 充様です。

本間様、どうぞよろしくお願いします。バックグラウンドについて興味深いなと思ったのですが、数学の修士をお持ちなんですね。

花王 本間さん:
実は、花王には数学の研究者として採用されまして。元々はWebのマーケティングをやるつもりはなくて、研究所に入ったんです。新卒で入って以来ずっと花王という、珍しい経歴です。

テーブル:R&Dということでしょうか?

花王 本間さん:
そうそう、プロダクトを作る方。専門だった数値シミュレーションを仕事にしたんです。それが1992年で、インターネットが商用オープンした94年に、Webサーバを作ってみたらハマってしまって。その後ずっとネットの世界で、もうすぐ15年になりますね。

ですからマーケティング出自じゃなくて、元々データ分析の方が好きだった。今はWeb広告研究会の代表をやらせていただいていますけど、本当はそんな人間じゃなかったはずなんですよ(笑)。



R 3-2 消費者はメディアの予想を超える


テーブル:花王様といえば、インターネット活用によるマーケティングの先駆者として有名ですが、その第一線で活躍されている本間さんは、消費者が今日、どのように変化したとお考えですか?

花王株式会社
デジタルコミュニケーションセンター 企画室長

本間 充さん

花王 本間さん:
やはり、メディアが増えて来たこと。お客様が自由に選択したり、組み合わせたり、使い方自体を開発するようになったことでしょうか。

例えば「テレビでチャットをする」なんて、20年前なら考えつかない世界です。でも、今のOLの方々は、女子高生時代に「テレビ観ながら携帯で電話」していたし、最近では、Twitterの話題を見てテレビをつけるなんて当たり前で。

メディアの歴史的には、まず新聞、次いでラジオ、そしてテレビが来た。家庭に3媒体入ったんだけど、その都度メディアのパラダイムシフトが起きているんですね。だからテレビの人たちからすると、インターネットがテレビを上書きしちゃうことが一番の脅威だったんです。

そうなっちゃえば、むしろ事態は簡単だった。でも実際にはマルチデバイス、マルチメディアの時代になってしまった。そこが一番の混乱…というか、多くの人たちが想像できなかったことで。マスマーケティングの人たちが困ってることですよね。

今後は「自分はコレがしたいからこのメディア」「あの人は別のデバイスを持っていて当然」ということが共通認識になるし、ツールやタッチポイントの分散化がどんどん進むでしょうね。

テーブル:メディアが拡散して、消費者が特定のツールや回路に嗜好性を持ち、かつて王道だったテレビも弱体化する中で、様々な導線の全てを考えつくすということは、実際上可能なんでしょうか?

花王 本間さん:
まず、大衆という集合体はもう存在しないと考えるべきでしょうね。従来は「ヒトコブラクダ」のマスマーケティングで、「ここに当てればOK」だった。でも今日この時代、平均値の所にはコブがないかもしれない。何ピークもあって、そのピークも高くないかもしれない。だからまず、どのグループの人たちと一緒に社会生活をするか、選ばなければいけないんですよ。



R 3-3 ブランドだけでは、ブランドはつくれない


テーブル:花王さんは、海外でいえばP&G的な、コンシューマパッケージの王者的存在。消費者との距離が非常に近い商品を扱っています。つまり主婦層のお客様などが多いと思うのですが、そういう方々はFacebookとは縁遠いかもしれないですよね。でも、ミクシィだったら近いかもしれないとか。そういう部分の距離の取り方は、どういうものなんでしょうか?

花王 本間さん:
Facebookとミクシィの温度差って、やはりマーケティング目線になってわかることですよね。そういう意味でいうと、花王を初め、ソーシャルに踏み込んでいない企業には、肌感覚ではわからないというのが実状じゃないでしょうか。

P&Gについては、ソーシャルに踏み込むと決断した理由が非常に明確でしたね。いわゆるジェネレーションY以降の世代は、元々ネットワークゲームやソーシャルがデファクトなツールなんだから、大人になったからって手放すはずがない。だからソーシャルをやるんだ、っていうね。

やりたい/やりたくないじゃなくて、使っているユーザがいて、パイも大きくなり、時を経て購買層になっていくし、現に購買層の中にも散在している。やらないという選択肢は、もはや存在しないんじゃないかと思います。

去年、シンガポールのBrand Summitで聞いた、改めてショックな話がありまして。ソーシャルメディアの登場でブランド側の人々が理解しないといけないのは、ブランドを定義する仕事自体が、ブランドサイドからこぼれ始めているというんですね。

ブランドというのは、プロダクトやサービスをコミュニケーションするための大きな「風呂敷」ですが、この風呂敷の一番良い設計者は、その商品のファンである。最初に商品の良さを理解したコンシューマの「ここが良い」という声が、ブランドの説明部位になり得る。その人こそエバンジェリストで、広告以上に多くの人の心を動かす。つまり、ブランドの定義から、既にお客様との共同作業なんですよね。



R 3-4 ツールでなく「どんなサプライズを提供できるか?」


テーブル:最近よくいわれる「傾聴」も、企業側のそういう問題意識の現われだと思います。花王さんでは傾聴の部分で、何かしら行われていますでしょうか?

花王 本間さん:
正直な話をすると、まだ模索段階で。傾聴は必要だろうと思っています。僕としても会社としても。本来ならトラディショナルな調査設計並みに埋め込むべきところが、トライ&エラーの最中で、組織論的にはこれからなんですね。

傾聴に関して、多くの人は「平均化された集合体」を考えがちです。けれど僕たちはソーシャルをやっている人たちをアーリーアダプターやイノベイターと言っていますし、別の人たちからすれば、ある意味、ギークなオタク集団なんじゃないかという議論になる。

ただ、そこに発言があること自体は事実なので。それが一部なのか全体なのか、その議論も含めて、発言には耳を傾けるべきだろうし、ヒントはあるだろう。コトラーさんの言うように、共同でモノを作っていくためには必要なエンジン、ツールだろうとは思っています。

テーブル:花王さんや本間さんが考える消費者とのコミュニケーションについて、現時点での取り組みですとか、今後のビジョンなどはどのようなものでしょうか?

花王 本間さん:
まずは従業員に、ソーシャルメディアそのものを理解してもらうこと。その次には…やっぱりソーシャルメディアって「人」なんです。花王の業態は、B to Cではなくて、実際はB to B to C。流通様という強力なパートナーが商品を販売するから、自分たちがお客様にコミュニケーションすることって、実はそんなになかったんですね。

ですから、お客様は何を望んでいて、どうしたら喜んでくれて、ソーシャル上にどう書き込んでくださるか。相手を理解しないとソーシャル活動って成り立ちませんから、それらを社員にいかに上手く伝えて、トレーニングするかが重要になってきます。

「Twitterをやりたい」「Facebookをマーケティングに使いたい」ということではなく、ツール選定は最後にあるべきで。ブランドオーナーとしては、お客様の常日頃のブランド体験だったり、ブランドが提供するサプライズってなんだろう?というのを真剣に考えるべきだと思います。

そのサプライズを他のお客様にも理解していただければ、自社プラットフォームでなくても「花王のあの商品、使ってみたら良かったからオススメ!」って、どこかのプラットフォームで語ってくれたら本望ですよね。

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