GUEST

株式会社資生堂 国内化粧品事業部 事業企画部 コミュニケーション戦略室長

石川 浩之さん

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R 5-1「宣伝」と「対面」


テーブル:本日の出張テーブルには、資生堂より石川 浩之さんをお迎えしました。国内化粧品事業部のコミュニケーション戦略室長として、メディアを横断して活躍されています。どうぞよろしくお願いします。

資生堂 石川さん:
よろしくお願いします。

テーブル:デジタル系などの新しいコミュニケーションと、旧来のマス媒体などをどう統合していくか。これを現在の課題とされている大手企業様も多いと思います。資生堂さんは昔からマスの活用を得意とされてきましたが、現在、デジタルメディアを含めたお客様とのコミュニケーションはどのようにオペレーションされているのでしょうか?

資生堂 石川さん:
資生堂の場合、ちょっと複雑なんです。特にデジタルメディアについては、連携で動かしています。

まず、ブランドを担当しているSBU(ストラテジック・ビジネスユニット)がブランドホルダーで、ここが大元を考えます。実際のコミュニケーションになりますと、Webサイトやバナー広告を作るのは宣伝制作部。コーポレート全体のWebレギュレーション管理は経営企画部。私の部署は、ペイドメディアのプランニング/バイイングと商品PRの2つの機能を持っていて、クロスメディアで化粧品事業のコミュニケーションを企画・推進しています。つまり3部署で分業しているんですね。

テーブル:なるほど。ありがとうございます。資生堂さんは昔から、「メディアの使い方が巧み」「コミュニケーションに長けている」という定評があるかと思うんですが。

株式会社資生堂
国内化粧品事業部 事業企画部
コミュニケーション戦略室長

石川 浩之さん

資生堂 石川さん:
確かに資生堂は、宣伝が活発だとか、得意だという風に見られているんですが…しかし内部では、コミュニケーションといった時に、常に2つの両極を意識しています。1つは宣伝というコミュニケーション。もう1つは、店頭における人対人。ビューティーコンサルタント(以下BC)とお客様間の、Face to Faceのコミュニケーションです。もちろん、この2つを包含するトータルのコミュニケーションもあります。

資生堂という会社が成長してきたのも、この2つを両輪のように動かしてきたからで、「宣伝で集客した」「商品が売れた」だけではないんですね。営業マンやBCの教育・マネジメントといった基礎の部分に、多大な時間とコスト、労力をかけてきた経緯があり、その上での両輪が一番の強みだろうと思っているわけです。

4月から始めたコミュニケーションの仕組みに『Beauty & Co.』と『ワタシプラス』というデジタル系プラットフォームがあります。これらも、単にeコマースを始めるとか、デジタルやWebで何ができるかではなくて、対面のコミュニケーションとデジタルとの間に、いかに上手くハイブリッドなものを構築できるか。それを強く意識しています。



R 5-2 「わかりやすい」は難しい


テーブル:ありがとうございます。新しいサービスについては非常に興味深いので後程お伺いするとしまして、石川さんご自身のコミュニケーションについてのお考え、一本筋を通していきたいポリシーのようなもの…そういったことをお伺いできましたら。

資生堂 石川さん:
よく「わかりやすいコミュニケーション」というフレーズが使われますよね。でも、「わかりやすい」とはどういうことか。「わかった」とはどういう状態を指すのか。よくわからないな、と思うんです。具体的な数字で言えばわかるのか。実は、具体的なものを出せば出すほど、わからなくなってくるんですね。例えば「何万立方メートルの量です」と言われるのと、それを抽象化して「東京ドーム何杯分です」と言われるのでは、どちらがイメージしやすいでしょうか?

化粧品で言えば、中身の成分まで事細かにスペックを書いたものは私たちでもわかりません。それを上手く抽象化するから、わかるようになる。でも抽象化しすぎると、またわからない。それをどの辺までブレイクダウンするか…CMや雑誌広告などを作ったりしていると、一番のポイントだなと思いますね。

メーカーからの「情報発信」と言いますが、我々のコミュニケーション戦略室では今、情報発信では駄目だというのが共通認識です。何GRP出稿した、何インプレッション出したというのは、吐き出しただけですから。コミュニケーションというのは、言いたいことを言えばいいとか、相手が聞きたいことを言えばいいというものではない。相手に伝わり、かつ、相手が持っている意識や認識、思いなどを動かせるもの。それを意識しなければ意味がないと考えています。

テーブル:なるほど。例えばWebの場合、ログ等を含めて情報が取れ過ぎてしまう側面がありますね。生のデータをドーンと出されて「これだけ効果があります」と言われても、数が多いとか指標が多いという以前に、そのこと自体がよくわからない…

資生堂 石川さん:
定量化はなかなか難しいんですけどね。この話は、人対人のコミュニケーションにも、テレビや雑誌のアナログメディアにも、デジタルメディアにも、基本的には通じることだと思います。人の心を動かすために、「どんな情報を、いかに伝えるか」こそが重要であるわけです。



R 5-3「お客様の情報」という資産


テーブル:資生堂さんの中では、そういう企業文化が脈々と息づいて、企業のミームみたいな形になっているのかなと推察します。ところで先ほどの、店頭のコミュニケーションが非常に重要だという点。具体的にはBCさんの教育などに関して、お伺いできますでしょうか。昔であれば、お客様がお帰りになると必ず、BCさんがすぐに葉書を書いて出すという話を聞いたことがあります。今はメールなども発達していますが…。

資生堂 石川さん:
そこは今、まさに緒に就いたところで。『ワタシプラス』を用いて、小売り様がお客様をある程度セグメントしてメールを発信するといったことも始めましたので、いわゆるCRMに着手した状態ですね。それまでは台帳を目で見て「この新製品はこの人にご紹介したい」とDMを出していたのが、ある程度オートマチックになりつつある。仰る通りだった従来の応対を、新しいツールで一歩も二歩も進めようというところです。

ただし根底は、やはりお客様の情報をよく知っているということ。今はオンライン化されていますが、昔は全部、紙の台帳でしたよね。化粧品屋さんが火事になったとして、商品が焼けちゃっても資生堂が補填できる、お店が焼けちゃっても保険で直る。でも顧客情報は何もバックアップがないから、いざという時には台帳だけ持って逃げるという世界だったんですね。それが『ワタシプラス』の仕組みを使えば、店頭でのお買い物、オンラインで買われたもの、カウンセリングのデータ等をトータルで見られる。それらを基に、お客様毎に最適な美容情報をお渡しできるわけです。

テーブル:例えば年配の方など、店頭には来るけどサイトは見ない方もいると思います。逆もいらっしゃるでしょうし。そういう方々にも対応した、1つのコミュニケーション・インフラになるということですね。

資生堂 石川さん:
仰る通りですね。



R 5-4 多様化・増大するタッチポイントの中で


テーブル:資生堂さんの場合、顧客とのタッチポイントが非常に多いかと思いますが、その辺りの管理は、何か特別なことをされているんでしょうか?

資生堂 石川さん:
本当に多様化して、ますます増えてきましたよね。今から3~40年前なら…ヒットソングとタイアップして、テレビCMでシーズンキャンペーンをドーンと打って、春なら2月、秋だと8月の21日に、日本全国2万のチェーンストアで、同じビジュアルでプロモーションが始まるわけです。日本中の大半の女性の方々が、似たようなコンタクトポイントで資生堂化粧品を見る。そういう“鉄板の構造”だったんですね。それが資生堂なのか、カネボウさんなのか、コーセーさんなのかというところでシェアが割れていた。POLAさんの訪問販売のような、違う業態も一部にはあったんですが。

その業態も、非常に分化が進みました。当時の化粧品店といえば町の専門店だけだったんですけど、そこから量販店、さらにはドラッグストア…ドラッグストアの売上も、今は45%くらいのシェアを持っています。コンビニエンスストアにも商品がありますよね。店頭だけでも、コンタクトポイントが激増しました。

それからデジタルメディアが一気に増えて、@cosmeのような口コミサイトも出てきた。女性向け雑誌や美容専門誌も多様化して、『美的』『MAQUIA』『VoCE』『美STORY』などの、美容化粧品だけで一冊できている雑誌が現れた…。つまりは「美容情報の総量」が、圧倒的に増えたんですね。使えるコンタクトポイントの量は、感覚的には10倍以上になった感じです。その中でどうしたら効果的なことができるか、悪戦苦闘というのが実態ですね。

チャネルも広がり、選択肢も広がり、コミュニケーションの選択肢も広がったことで、いわゆるトップメーカーのみならず、「テレビ通販だけの化粧品ブランド」や「ネット通販のブランド」など、ブランド数も非常に増えてきた。従来型の、自分たちの持ち味を活かすだけのやり方ではお客様が増えなくなってきた。

そこで、改めてこの新しい環境下で何ができるだろうかと考え直した時に、デジタルとアナログのハイブリッドとして打ち出した新しいビューティービジネスモデル。それが4月から始めた『ワタシプラス』と『Beauty & Co.』なんです。

テーブル:今年になって始まったということですね。大型の交通広告もやっていらっしゃいますし、テレビCMも同じ素材、イメージで通貫されていて、非常に力の入った取り組みですね。

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