GUEST
株式会社 ニューバランス ジャパン マーケティング部長
鈴木 健さん
R 7-1 創業100年を超える老舗ブランド、ニューバランス
テーブル:本日の出張テーブルには、株式会社 ニューバランス ジャパンより、マーケティング部長の鈴木 健さんをお招きしました。ご自身、ランナーでもあり、ニューバランスのコミュニケーションをリアル/デジタルの両面から展開されています。まずはニューバランスというブランドの紹介、次いで鈴木さん自身の自己紹介をいただければと思います。どうぞよろしくお願いします。
ニューバランス 鈴木さん:
よろしくお願いします。ニューバランスは1906年、ボストンで生まれた会社です。…あ、ちょうどこのテーブルに、歴史が図解されていますね。
テーブル:正に「コミュニケーションのテーブルにつこう!」ですね。ありがとうございます。
ニューバランス 鈴木さん:
最初は、扁平足矯正用のインソールを作っていたんです。アーチサポートといって、鶏の脚が3点で体重を支えていることにヒントを得て発想したものです。社名も、その「新しいバランスをもたらす」インソールに由来していて。現存のスポーツブランドで100年以上同じ名前の会社は、ニューバランスだけかもしれませんね。
1972年、今の会長でもあるジェイムス・デイヴィスが、オーダーメイドでランニングシューズをつくっていたこの小さな会社を買って、先進的な発想で現在のかたちに変えていきます。同じ年に生まれたブルーリボンスポーツという会社が、現在のナイキの前身です。戦後で豊かになってきて、スポーツが、一部の人たちから大衆に解放されていく過程と一致しているんですね。
その後、80年代、90年代と、ジョギングブーム、フィットネス、スニーカーが流行ったりして、靴のテクノロジーにも飛躍的な革新が起こるんですが、その頃からエポックメイキングな商品を作り始めて今に至ります。会社としてユニークなのは、未だにアメリカの工場で生産していて、昔ながらの職人気質と新しいテクノロジーが融合している点。歴史を重んじる会社ならでは、というところでしょうか。
R 7-2 メーカーサイドで初めて実感した、消費者の存在
テーブル:ありがとうございます。鈴木さんご自身の経歴としては…。
株式会社
ニューバランス ジャパン
マーケティング部長
鈴木 健さん
ニューバランス 鈴木さん:
私はもともとは広告代理店からスタートして。その後、ご縁があって、えーと今の競合ですけれども(笑)ナイキに入りまして。その後、このニューバランスに入りました。前職が7年、ここが3年、社会人になって20年くらいですから、ほぼ半分くらいは広告代理店をやっていた計算になります。
テーブル:そんな鈴木さんが現時点で考えられている、お客様とニューバランスとのコミュニケーションのあり方とは、一体どのようなものでしょうか?
ニューバランス 鈴木さん:
スポーツブランドに求められるのは、「運動する」という人間の要求、お客様が求めるものを、そのままかたちにしていく姿勢なんですね。既にテクノロジーがあって「さあこれをどうしようか」という発想ではない。お客様志向が強い業態だと思います。実を言うと代理店時代には、あまりお客様…消費者のことを切実に考えてはいなかったんですよ。
テーブル:そうなんですか?それはちょっと意外ですが…。
ニューバランス 鈴木さん:
もちろんプランニング上で消費者は出てきますが、代理店的には「お客さん」と言えば、まずクライアントのこと。最後の2年くらいはストラテジックプランナーとして、最終消費者についてきちんと考えるようになりましたけど、その段階でも、なにか面白いことを仕掛けよう、というのが先立っていたり。
だからメーカーに来た時には「ああ、お客さんってこういうものなんだ!」って。よくドラマなんかで「お前はお客さんのことをどこまでわかってんだ!」みたいな台詞があるじゃないですか。あの実感は、メーカーサイドに立たないと湧かないなと思いましたね。
R 7-3 SNSが繋いだ、社員とお客様
ニューバランス 鈴木さん:
お客様については、まだまだ自分たちにはわかっていないなとも思っています。そういえば去年、こんなエピソードがありました。
ニューバランスでは、Twitterをやりたいという担当がいれば、自分でアカウントを管理するという条件で許可するんです。そうすると、ツイートしているとお客様から直接クレームを言われたりするわけです。「ネットが繋がりません」とか。それでトラブルになりかけて…その担当も一生懸命に答えて、みんなもハラハラしながら見守っていたんですが。落ち着いた後に、彼が一言「初めて消費者と話をした気がする」と言ったんですよね。
テーブル:…おお!
ニューバランス 鈴木さん:
「プランニングはしていたけれど、消費者と直接関わることはなかった」って。彼にとってソーシャルメディアは、マーケティングツールだなんだという前に、お客様を初めて「発見する」きっかけになったわけです。
R 7-4 ペルソナでなく、現実の消費者を見つめたい
ニューバランス 鈴木さん:
他にも…今年から協賛することになったロッテルダムのマラソンに、抽選でお客様を一人、ご招待したんですね。20代前半くらいの方が当選されて。走っている時以外はずっとご一緒しますから、あれこれ話をさせていただいたんです。それこそ普段考えていることですとか。この体験もまた、面白かったですね。直に肉声を聞かせていただくと、僕らの売っているものは、当たり前ですけど、広い生活空間の中のほんの一部でしかないなと改めて実感したり。
テーブル:消費者という抽象的な存在が、全人格的な「ヒト」として立ち現われてくるという感じでしょうか。
ニューバランス 鈴木さん:
そういうことですね、本当に。僕はあまりペルソナという概念が好きじゃなくて、それよりは直接、具体的な個人を考える方がいいんじゃないかと思うんですね。その方が働いている我々もやりがいが出てくるし、結果的にお客様のためになる。これはマーケティング以前の、モチベーションなんかに関わる話だと思うんですけど。
R 7-5 アスリートは「最初の顧客」で「仲間」、「従業員」で「エバンジェリスト」
ニューバランス 鈴木さん:
スポーツブランドには契約アスリートがいますが、彼らはある意味、そういう存在なんです。「この人がまず製品を喜んでくれないと」という信念で仕事を進めます。最大公約数的なものをつくるよりは、「この人のためにこれを作った」みたいなことが基盤じゃないと、商品やサービスというのは良くなっていかないんじゃないか…という気がします。
テーブル:なるほど、契約アスリートの方々には、そういう位置付けもあるんですね。
ニューバランス 鈴木さん:
ええ、非常に複合的な役割があって。スポーツメーカーにとっては彼らがまず、喜ばせるべき最初の顧客なんです。その選手が商品を使って、例えばオリンピックでメダルを取れば、みんなで一体になって喜びます。ですから同じ仲間、従業員でもある。しかも広告塔、エバンジェリストでもあるわけです。
スポーツ業界では、この「選手販促」、つまりスポーツマーケティングは花形の仕事なんです。三つの役割を持った一流選手と、一緒にブランドの製品をかたちにしていく。最初は選手のために製品を届けるんだけど、選手がいつのまにかブランドの仲間になって、今度は一生懸命、ブランドや製品を外で勧めてくれる。選手はその道の有名人ですから、みんなが納得して買う…みたいな。こんな仕事、なかなか無いですよね。スポーツブランドにいて、一番面白いなと思うところです。
R 7-6 マーケティングを超える、コミュニケーションの幅広さ
ニューバランス 鈴木さん:
こういった感覚からすると、メディア上でのプランニングっていうのは、どこか大上段だったり、上から目線になる可能性があって。実際に必要なのは、もっと現場的な実感なんです。優秀な経営者が、従業員に紛れて何気なくお店に立ったりする話をよく聞きますが、あれはきっと、消費者の本当の姿を知りたいんですよね。
他にも、これはとある業界紙で読んだ社長の話なんですが、「採用」と「プライシング(値付け)」だけは未だに自分で直接やっている、これだけは譲れないと。それがきっと、その方にとっての社内やお客様とのコミュニケーションなんだなと思いました。
今「コミュニケーション」という言葉から想像するのは、ですから広告とかプロモーションの中身じゃなくて、ましてや、システム上でコメントが上がってくるとか…(笑)そういうことでもなくて、もっとずっと広いもの。決してマーケティングの世界に閉じ込められるべきものではない、と感じています。
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